中原中也「山羊の歌」


    
   生ひ立ちの歌


 
    I

 
     幼 年 時
 
 私の上に降る雪は
  まわた
 真綿のやうでありました
 

 
     少 年 時
 
 私の上に降る雪は
 みぞれ
 霙のやうでありました
 

 
     十七―十九
 
 私の上に降る雪は
 あられ
 霰のやうに散りました
 

 
     二十―二十二
 
 私の上に降る雪は
 ひよう
 雹であるかと思はれた
 

 
     二十三
 
 私の上に降る雪は
 
 ひどい吹雪とみえました
 

 
     二十四
 
 私の上に降る雪は
 
 いとしめやかになりました……
 

    II

 
 私の上に降る雪は
 
 花びらのやうに降つてきます
 たきぎ
 薪の燃える音もして
             くろ
 凍るみ空の黝む頃
 

 
 私の上に降る雪は
 
 いとなよびかになつかしく
 
 手を差伸べて降りました
 

 
 私の上に降る雪は
 
 熱い額に落ちもくる
 
 涙のやうでありました
 

 
 私の上に降る雪に
 
 いとねんごろに感謝して、神様に
 
 長生したいと祈りました
 

 
 私の上に降る雪は
 
 いと貞潔でありました