上田敏「海潮音」

 
 出征

ホセ・マリヤ・デ・エレディヤ




  たかやま  と ぐ らす       しよう
 高山の鳥栖巣だちし兄鷹のごと、
                             うん
 身こそたゆまね、憂愁に思は倦じ、
 
 モゲルがた、パロスの港、船出して、
  をたけ        たく                ますらを
 雄誥ぶ夢ぞ逞ましき、あはれ、丈夫。
 

                        かなやま
 チパンゴに在りと伝ふる鉱山の
  しまおうごん
 紫摩黄金やわが物と遠く、求むる
           し              ときつかぜ
 船の帆も撓わりにけりな、時津風、
                        とほつありそ
 西の世界の不思議なる遠荒磯に。
 

                        あした
 ゆふべゆふべは壮大の旦を夢み、
             ねつたいかい
 しらぬ火や、熱帯海のかぢまくら、
        まぼろし
 こがね 幻 通ふらむ。またある時は
 

                へ
 白妙の帆船の舳さき、たゝずみて、
  ふりさけ
 振放みれば、雲の果、見知らぬ空や、
 わだつみ                      にひぼし
 蒼海の底よりのぼる、けふも新星。



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