上田敏「海潮音」

  ひ ゆ
 譬喩

ポオル・ヴェルレエヌ




       ほ       かな むみよう        にくみ
 主は讃むべき哉、無明の闇や、憎多き
 
 今の世にありて、われを信徒となし給ひぬ。
 
 願はくは吾に与へよ、力と沈勇とを。
                い ぬ
 いつまでも永く狗子のやうに従ひてむ。
 

  いけにへ
 生贄の羊、その母のあと、従ひつつ、
                        は         お
 何の苦もなくて、牧草を食み、身に生ひたる
                     とき
 羊毛のほかに、その刻来ぬれば、命をだに
 
 惜まずして、主に奉る如くわれもなさむ。
 

                  み こ  かしらじかたど
 また魚とならば、御子の頭字象りもし、
  ろ ば
 驢馬ともなりては、主を乗せまつりし昔思ひ、
                  はら       ゐのこ
 はた、わが肉より禳ひ給ひし豕を見いづ。
 

      すゑ
 げに末つ世の反抗表裏の日にありては
 
 人間よりも、畜生の身ぞ信深くて
    すなほ    にんにく
 心素直にも忍辱の道守るならむ。



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