上田敏「海潮音」

 
 春の貢

  ダンテ・ゲブリエル・ロセッティ




                  うへ        うる           おも
 草うるはしき岸の上に、いと美はしき君が面、
        よこた
 われは横へ、その髪を二つにわけてひろぐれば、
                          じろ         こがね
 うら若草のはつ花も、はな白みてや、黄金なす
          ひま             おもはゆ      のぞ
 みぐしの間のこゝかしこ、面映げにも覗くらむ。
  こ ぞ                        さかひ
 去年とやいはむ今年とや年の境もみえわかぬ
                           なかば         こすもも
 けふのこの日や「春」の足、半たゆたひ、小李の
              しろたへ               まど
 葉もなき花の白妙は雪間がくれに迷はしく、
               あ づ ま や       かよひぢ
 「春」住む庭の四阿屋に風の通路ひらけたり。
 

        うづき
 されど卯月の日の光、けふぞ谷間に照りわたる。
       まなこ
 仰ぎて眼閉ぢ給へ、いざくちづけむ君が面、
  みづえ こえだ
 水枝小枝にみちわたる「春」をまなびて、わが恋よ、
        のど
 温かき喉、熱き口、ふれさせたまへ、けふこそは、
 ちぎり
 契《ちぎり》もかたきみやづかへ、恋の日なれや。冷かに
               とこしへ               おと
 つめたき人は永久のやらはれ人と貶し憎まむ。



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