山村暮鳥
「風は草木にささやいた」



  
 十字街の詩

   “THlS IS THE MANY-TENTACLED TOWN”
                ――VERHAEREN――



 
ここは都会の大十字街
 
すべての道路はここにあつまり
 
すべての道路はここからはじまる
 
堂堂とその一角にそびえた
 
大銀行をみろ
 
その窓のしたをぞろぞろと
 
ひとはゆき
 
ひとはかへる
 
なんにもしらないゐなかぴとすら
 
この大銀行の正面にてはあたまを垂れ
 
手をうやうやしくあはせる
 
ああ都会の心臓である十字街
             あくじき
都会はまるで悪食をする大魚の胃ぶくろのやうに
 
ここはひとびとをひきつけて
 
そのひとびとを喰ひ殺すところだ
 
そこから四方へ草の蔓のやうにのびてゆく街街
 
つらなり列ぶ家家
 
何といふ立派なものだ
 
ああ此のけむり吐く大煙筒の林
 
此のすばらしさに帽子をとれ
 
へとへとにつかれながら而も壮麗に生きてゐる大都市
 
此の中央大十字街
 
その感覚はくもの巣のやうな大路小路にひろがり
 
ひろいひろい郊外に露出して顫へ
 
其処で何でもかでも鋭敏に感じてゐる神経
 
どんなものでもひつ掴まうとしてゐる神経
 
その尖瑞のおそろしさよ