山村暮鳥
「風は草木にささやいた」



  
 太陽はいま蜀黍畑にはいつたところだ


 
一日の終りのその束の間をいろどつてゆつたりと
 
太陽はいま蜀黍畑にはいつたところだ
 
大きなうねりを打つて
 
いくへにもかさなりあつた丘の畑と畑とのかなたに
 
赤赤しい夕焼け空
 
枯草を山のやうに積んだ荷馬車がかたことと
 
その下をいくつもつづいてとほつた
 
なんといふやすらかさだ
 
此の大きいやすらかな世界に生きながら人間は苦んでゐる
 
そして銘々にくるしんでゐる
 
それがうつくしいのだ
 
此のうつくしさだ
                             ヽ ヽ ヽ ヽ
どこか深いところで囁いてゐるこほろぎ
 
自分を遠いとほいむかしの方へひつぱつてゆくその声
 
けれど過ぎさつた日がどうなるものか
         あした
何もかも明日のことだ
 
何もかも明日のことだ