山村暮鳥
「風は草木にささやいた」



  
 自分はさみしく考へてゐる


 
ひとぴとを喜ばすのは善いことである
 
自分をよろこばすのは更に善いことである
 
ひとびとをよろこばすことは
 
或は出来るかも知れぬ
 
自分をよろこばすことは大切であるが容易でない
 
物といふあらゆる物の正しさ
 
みなその位置を正しく占めてゐる秋の一日
 
すつきりと冴えた此の手よ
 
痩せほそつた指指よ
 
こんなことを自分はひとり考へてゐる
                          か げ
なんといふさみしい自分の陰影であらう