寺田寅彦『柿の種』
短章 その一




 
 霊山の岩の中に閉じ込められて、無数の宝石が光り輝いていた。
 
 試みにその中のただ一つを掘り出してこの世の空気にさらすと、
                                つちくれ
たちまちに色も光も消え褪せた一片の土塊に変わってしまった。
 
 同時に、霊山の岩の中に秘められたすべての宝石も、そのことご
 
とくが皆ただの土塊に変わってしまった。
 
 私の頭の中には、数限りもない美しい絵が秘蔵されていた。
 
 私は試みに絵筆を取って、その中の一つを画布の上に写してみた。
 
 ……気のついた時はもう間に合わなかった。
 
 ……同時に頭の中のすべての美しい絵もみんな無残に塗り汚され
 
てしまった。
 
 そうして私はただのつまらない一画工になってしまった。
 
(大正九年十月、渋柿)


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