寺田寅彦『柿の種』
短章 その一




   あし
 脚を切断してしまった人が、時々、なくなっている足の先のかゆ
 
みや痛みを感じることがあるそうである。
 
 総入れ歯をした人が、どうかすると、その歯がずきずきうずくよ
 
うに感じることもあるそうである。
                                             とんせい
 こういう話を開きながら、私はふと、出家遁世の人の心を想いみ
 
た。
 
 生命のある限り、世を捨てるということは、とてもできそうに思
 
われない。
 
(大正九年十一月、渋柿)


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