寺田寅彦『柿の種』
短章 その一




 
 人殺しをした人々の魂が、毎年きまったある月のある日の夜中に
 
墓の中から呼び出される。
 
 そうして、めいめいの昔の犯罪の現場を見舞わせられる。
 
 行きがけには、だれも彼も
 
 「正当だ。おれのしたことは正当だ」
 
とつぶやきながら出かけて行く。
 
 ……しかし、帰りには、みんな
 
 「悪かった、悪かった」
 
とつぶやきながら、めいめいの墓場へ帰っていくそうである。
 
 私は、……人殺しだけはしないことにきめようと思う。
 
(大正十年二月、渋柿)


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