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かつて東京・門前仲町のとあるスタジオで毎月行われていた、「東京スーパーセッション」。六本木のライブハウスでその名を全国で知らしめ、江戸情緒の残る門仲に場所を移して開催し、30回を越えたところで休止になった伝説のイベントだ。 この催しはインターネットサイト「V−fan Network」に集った人たちで構成するオフ会が起源だ。世界でも類い希な活躍を見せるギター・インストゥルメンタル・バンド、THE VENTURESに見せられた連中がここに集結し、アンダーグラウンドな雰囲気の中で思い思いのベンチャーズ・スタイルで演奏を楽しんでいた。ベンチャーズ・ファンが集まるイベントは全国数多く行われてきたが、ホストミュージシャンが来場客と「セッションを楽しむ」ことを「メイン」にして運営したのはこの六本木が初めてと思われる。 通常、バンド合戦の形になるのが多いのに、ここは「個人」単位の参加が多かった。 元々、ベンチャーズはその特殊な楽器編成により、「好きな人なら一人でギターを弾いて楽しむ」ことが出来る。ましてや、かつて驚異的なレコード売り上げを記録し、社会現象を起こしたアーティストであるがために、バンドとしてのフォロワーとは別に、おびただしいほどの「個人ベンチャーズ・ファン」群を形成するに至っている。インターネットで家で夜な夜な情報収集する輩にとって「六本木スーパーセッション(後の東京スーパーセッション)」は格好の「ギター・コミュニケーション」の場となった。 だが、ここに、奇妙な人が集まっていた。 自己の所属するバンドやサークルがあるにもかかわらず、参加してくる、正真正銘の「マニア」たちだ。言い換えるなら「おたく」の部類に入るかもしれない。 彼らは、ベンチャーズの情報交換をし、演奏のうんちくをとりとめもなく話し、たった一曲のバージョン違いを演奏するためにギターを複数本抱えて来場したり、アンプを何台も持ち込んだりする、全く一般の人には理解出来ない価値観を持った人たちだ。 彼らにとって、ここで知り合った友人たちといる時が正に至福の時であって、水を得た魚のような演奏をする。ちゃんと、自分のバンドやサークルがあるのに、である。 そして2001年、六本木スーパーセッションでの出会いから結成されたユニットが誕生するのである。 正式名称、「M・ベンチャーズ」。通称「ムッツリ・ベンチャーズ」である。 ユニットを形成するメンバーは、全員リードギターという、非常に偏った構成だ。年代に関係なくオールラウンドにベンチャーズを嗜む者から65・66年のライブ版しかコピーしない偏狭な猛者もいる。共通点は、全員が一応「65年」を起点にしていること。演奏中はにやにやしないこと。モズライトギターに魅せられていること、である。 “M”はもちろん“mosrite”に由来しているという噂もあるが、実際は後から意味はこじつけたというのが真実だ。というのも、2001年9月、われわれユニットにまだ正式名称がついていない時に横浜市のとある場所でセッションがあり、そこでメンバーの無口なパフォーマンスから「ムッツリ・ベンチャーズ」といわれるようになったからである。後日メンバーでユニット名を考え始めた時にはすでに遅かった。既成事実化してしまった「ムッツリ」のテイストを残しつつ、頭文字のMを生かす道しか残されていなかったからである。「モズライト・ベンチャーズ」というそのものズバリの案もあったが、休眠中とはいえ九州・福岡市に同名のバンドがあること他、さまざまな理由で採用にはいたらず、最終的に含蓄を込め、「M・ベンチャーズ」としたのである。 全員リードギター、といえどもベンチャーズ・トリビュート・プレーヤーに多い、「マルチ・プレ−ヤー」の存在により、ベース、リズムギター担当には事欠かない。唯一、ドラムスは担当できるのが一人のみ。だが、「ベンチャーズ・バンドはドラムスによって“決まる”」という信念のもと、メルの黄金期のライブバージョンを叩き分けられる事を目標にメロテイラー小澤が奮闘している。 現在ところベンチャーズの長い歴史には目もくれず、1965〜67年のライブを再現することだけを目的に、黙々と弾きこなすユニットであるが、2010年、そろそろ飛躍はあるのか・・・。 |