北原白秋
 

「邪宗門」より

  
 謀叛




             しやうじや
 ひと日、わが精舎の庭に、
 おそあき           いりひ
 晩秋の静かなる落日のなかに、
                うすぎ    ふきあげ  といき
 あはれ、また、薄黄なる噴水の吐息のなかに、
                              いと
 いとほのにヰ゛オロンの、その絃の、
            かなしみ
 その夢の、哀愁の、いとほのにうれひ泣く。
  らふ       ざんげ
 蝋の火と懺悔のくゆり
               らう          ころも
 ほのぼのと、廊いづる白き衣は
        もの      しうだうめ       ひとつら
 夕暮に言もなき修道女の長き一列。
 
 さあれ、いまヰ゛オロンの、くるしみの、
                           いと
 刺すがごと火の酒の、その絃のいたみ泣く。
 

 
 またあれば落日の色に
 
 夢燃ゆる噴水の吐息のなかに、
                    しらとり  うれひ
 されになほ歌もなき白鳥の愁のもとに、
          せいやく
 いと強き硝薬の、黒き火の、
           みちび や
 地の底の導火燬き、ヰ゛オロンぞ狂ひ泣く。
 

  をど   く  しやりやう
 跳り来る車輛の響、
       た ま      けむり      やいば
 毒の弾丸、血の烟、閃めく刃、
           す は             ふきあげ
 あはれ、驚破、火とならむ、噴水も、精舎も、空も。
 くれなひ  わななき        はて
 紅の、戦慄の、その極の
  たまゆら  さけび や                めし
 瞬間の叫喚燬き、ヰ゛オロンぞ盲ひたる。



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