北原白秋
 

「思ひ出」より

  
 身熱




 
 母なりき、
 
 われかき抱き、
                 か げ
 ザボンちる薄き陰影より
                     す
 のびあがり、泣きて透かしつ
               ひつぎ  ゆ
 『見よ、乳母の棺は往く。』と。
 

       ひ る
 時に白日、
  おほじ
 大路青ずみ、
        つら
 白き人列なし去んぬ。
  せつな
 刹那、また、火なす身熱、
                   ただ
 なべて世は日さへ爛れき。
 

 
 病むごとに、
 
 母は歎きぬ。
          な
 『身熱に汝は乳母焦がし、
 
 また、JOHNよ、母を。』と。――今も
                   おそれ
 われ青む。かかる恐怖に。



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