知里幸惠編訳−「アイヌ神謡集」より



Esaman yaieyukar, かわうそ
 獺 が自ら歌った謡
“Kappa reureu kappa”  
「カッパ レウレウ カッパ」
 
Kappa reureu kappa.  
カッパ レウレウ カッパ
Shineantota petesoro shinotash kor  
ある日に,流れに沿うて遊びながら
maash wa sapash kiwa, Samayunkur  
泳いで下りサマユンクルの
kor wakkataru putuhu ta sapash awa,  
水汲路のところに来ると,
Samayunkur kot tureshi kamui shiri ne  
サマユンクルの妹が神の様な美しい容子で
oattekkor niatush ani oattekkor  
片手に手桶を持ち片手に
kinatantuka(1) anpa kane ek koran wakusu  
蒲の束を持って来ているので
petparurketa chisapaha patek chietukka,  
川の縁に私は頭だけ出し,
“Ona ekora ?  
「お父様をお持ちですか?
Unu ekora?” itakash awa  
お母様をお持ちですか?」と云うと,
pon menoko homaturuipe shikkankari  
娘さんは驚いて眼をきょろきょろさせ
unnukar awa kor wenpuri enantui ka  
私を見つけると,怒の色を顔に
eparsere,  
現して,
“Toi sapakaptek, wen sapakaptek,  
「まあ、にくらしい扁平頭,悪い扁平頭が
iokapushpa,(2) nimakitarautar, cho cho......”  
人をばかにして.犬たちよ,ココ……
ari hawean awa poro nimakitarautar(3)  
と言うと,大きな犬どもが
usawokuta, unnukar awa notsep humi  
駆け出して来て,私を見ると牙を鳴ら
taunatara. Chiehomatu, petasama  
している.私はビックリして川の底へ
chikorawoshma, nani petasam peka  
潜り込んですぐそのまま川底を通って
kiraash wa sapash.  
逃げ下った.
Sapash aine Okikirmui kor wakkataru  
そうして,オキキリムイの水汲路の
putuhu ta chisapaha patek chietukka,  
川口へ頭だけだして
inkarash awa Okikirmui kot tureshi  
見ると,オキキリムイの妹が
kamui shirine oattekkor niatush ani  
神の様に美しい様子で片手に手桶を持ち
oattekkor kinatantuka anpa kane  
片手に蒲の束を持って
ek wakushu itakash hawe ene okai:――  
来たので私のいうことには,
“Ona ekora ?  
「御父様をお持ちですか?
Unu ekora?” itakash awa  
御母様をお持ちですか?」というと,
ponmenoko homaturuipe shikkankari  
娘さんは驚いて眼をきょろきょろさせ
unnukar awa kor wempuri enantuikashi  
私を見ると,怒りの色を顔に
eparsere,  
表して,
“Toi sapakaptek, wen sapakaptek  
「まあ、にくらしい扁平頭,悪い扁平頭が
iokapushpa, nimakitarautar, cho cho......”  
人をばかにして.犬たちよ,ココ……
itak awa poro nimakitarautar chisaokuta.  
と言うと大きな犬どもが駆け出して来た.
Shirki chiki eshiranpe chieshikarun,  
それを見て私は先刻の事を思い出し
chieminarushui kor petasama chikorawoshma  
可笑しく思いながら川の底へ
kiraash kushu ikichiash awa,  
潜りこんで逃げようとしたら,
sennekashui nimakitarautar ikichi kuni  
まさか犬たちがそんな事をしようとは
chiramuai notsep humi taunatara,  
思わなかったのに,牙を鳴らしながら
petasam pakno unkotetterke  
川の底まで私に飛び付き
yaoro unekatta, chisapaha chinetopake  
陸へ私を引き摺り上げ,私の頭も体も
apukpuk arishparishpa ki aineno  
噛みつかれ噛みむしられて,しまいに
nekonaneya chieramishkare.  
どうなったかわからなくなってしまった.
Hunakpaketa yaishikarunash inkarash awa,  
ふと気が付いて見ると,
poro esaman ashurpeututta rokash kane  
大きな獺の耳と耳の間に私はすわって
okayash.  
いた.
Samayunkur ka Okkikirmui ka  
サマユンクルもオキキリムイも
one ka sak unu ka sak ruwe chieraman wa  
父もなく母もないのを私は知って
enean irara chiki kushu aunpanakte,  
あんな悪戯をしたので罰を当てられ
Okikirmui kor setautar orowa aunraike,  
オキキリムイの犬どもに殺され
toi rai wen rai chiki shiri tapan.  
つまらない死方,悪い死方をするのです.
Tewano okai esamanutar itekki irara yan.  
これからの獺たちよ,決して悪戯をしなさるな.
  ari esaman yaieyukar.  
  と,獺が物語った.
 

(1)  kinatantuka……蒲の束.蒲は編んで筵の様な敷物にするのですが,よく乾いているのをそのまま編むといけませんから,少し湿してからつかいます.この話にあるのも,そのために女が川に持っていくのでしょう.(

(2)  i-okapushpa. 人は死んでしまった親や親戚などの名を言ったり,その事をふだん話したりする事を i-okapushpa と言って大へん嫌います.また,人のかくしていた事をそばからほじり出して,みんなに言ったり,その人の聞きにくい様なその人の前の行為などを口に出したりする事も i-okapushpa と言います.(

(3)  nimakitara……牙を剥き出している.これは犬の事.山のけものたちは,人が猟に行くと犬を連れて行きますが,その犬に歯をむき出してかかられるのが一ばん恐いので,犬にこんな名をつけて恐がっています.(


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