寺田寅彦『柿の種』
短章 その一




 
「ダンテはいつまでも大詩人として尊敬されるだろう。……だれも
 
読む人がいないから」
 
と、意地の悪いヴォルテーアが言った。
 
 ゴーボやゴーガンもいつまで崇拝されるだろう。……
 
  だれにも彼らの絵がわかるはずはないからである。
 
(大正十年五月、渋柿)


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