寺田寅彦『柿の種』
短章 その一




               ゆめうつつ
 寝入りぎわの夢現の境に、眼の前に長い梯子のようなものが現わ
 
れる。
 
 梯子の下に自分がいて、これから登ろうとして見上げているのか、
 
それとも、梯子の上にいて、これから降りようとしているのか、ど
 
う考えてもわからない。
 
(大正十年七月、渋柿)


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