寺田寅彦『柿の種』
短章 その一




 
 一に一を加えて二になる。
 
 これは算術である。
 
 しかし、ヴエクトルの数学では、1に1を加える場合に、その和
 
として、0から2までの間の任意な値を得ることができる。
 
 美術展覧会の審査には審査員の採点数を加算して採否を決めたり
 
する。
 
 あれは算術のほかに数学はないと思っている人たちのすることと
 
しか思われない。
 
(大正十年十月、渋柿)


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