寺田寅彦『柿の種』
短章 その一




 
 昔、ロンドン塔でライオンを飼っていた。
 
 十四世紀ごろの記録によると、ライオンの一日の食料その他の費
 
用が六ペンスであった。
 
 そうして囚人一人前の費用はというと、その六分の一に一ペニー
 
であったそうである。
 
 今の上野動物園のライオンと、深川の細民との比較がどうなって
 
いるのか知りたいものである。
 
(大正十年十月、渋柿)


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