ある日。
汽車のいちばん最後の客車に乗って、後端の戸口から線路を見渡
した時に、夕日がちょうど線路の末のほうに沈んでしまって、わず
レール
かな雲に夕映えが残っていたので、鉄軌がそれに映じて金色の蛇の
ように輝き、もう暗くなりかけた地面に、くっきり二条の並行線を
かく
劃していた。
汽車の進むにつれて、おりおり線路のカーヴにかかる。
カーヴとカーヴとの間はまっすぐな直線である。
それが、多くは踏切の所から突然曲がり始める。
ほとんど一様な曲率で曲がって行っては、また突然直線に移る。
なるほど、こうするのが工事の上からは最も便利であろうと思っ
て見ていた。
しかし、少なくもその時の私には、この、曲線と直線との継ぎは
ぎの鉄路が、なんとなく不自然で、ぎごちなく、また不安な感じを
与えるのであった。
そうして、鉄道に沿うた、昔のままの街道の、いかにも自然な、
美しく優雅な曲線を、またなつかしいもののように思ってながめる
のであった。
(大正十三年一月、渋柿)