寺田寅彦『柿の種』
短章 その一




 
 「二階の欄干で、雪の降るのを見ていると、自分のからだが二階
 
といっしょに、だんだんと空中へ上がって行くような気がする。」
 
と、今年十二になる女の子がいう。
 
 こういう子供の頭の中には、きっとおとなの知らない詩の世界が
 
あるのだろうと思う。
 
 しかしまた、こういう種類の子供には、どこか病弱なところがあ
 
るのではないだろうかという気がする。
 
(大正十三年八月、渋柿)


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