寺田寅彦『柿の種』
短章 その一




 
 第一流の新聞あるいは雑誌に連載されていた続きものが、いつの
 
まにか出なくなる。
 
 完結したのだか、しなかったのだか、はっきりした記憶もなしに
 
忘れてしまう。
 
 しばらく経てから、偶然の機会に、それの続きが、第二流か三流
 
の新聞雑誌に連載されていることを発見する。ちょっと、久しぶり
 
で旧知にめぐり会ったような気がする。
 
 なつかしくもあれば、またなんとなくさびしくもある。
 
(大正十三年十二月、渋柿)


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