寺田寅彦『柿の種』
短章 その一




 
 古典的物理学の自然観はすべての現象を広義における物質とその
 
運動との二つの観念によって表現するものである。
 
 しかし、物質をはなれて運動はなく、運動を離れて物質は存在し
 
ないのである。
                       ばしょう
 自分の近ごろ学んだ芭蕉のいわゆる「不易流行」の説には、おの
 
ずからこれに相通ずるものがある。
 
(昭和二年五月、渋柿)


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