寺田寅彦『柿の種』
短章 その一




 
 石器時代の末期に、鋼町使用が始まったころには、この新しい金
 
属材料で、いろいろの石器の形を、そっくりそのままに模造してい
 
たらしい。
 
 新しい素材に、より多く適切な形式を発見するということは、存
 
外容易なことではないのである。
 
 また、これとは反対に、古い形式に新しい素材を取り入れて、そ
 
の形式の長所を、より多く発揮させることもなかなかむずかしいも
 
のである。
 
 詩の内容素材と形式との関係についても、同様なことが言われる。
 
(昭和四年三月、渋柿)


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