寺田寅彦『柿の種』
短章 その一




 
   震生湖より

              きのう                        はたの
 (はがき)昨日は、朝、急に思い立ち秦野の南方に、関東地震の
                                しんせいこ
際の山崩れのめに生じた池、「震生湖」というのを見物および線影
 
に行った。……
 
   山裂けて成しける池や水すまし
       ほすすき   な い
   穂芒や地震に裂けたる山の腹
 
(昭和五年十月、渋柿)


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