中原中也「在りし日の歌」


   
  秋の消息


              はだへ      すが
 麻は朝、人の肌に追い縋り
 
 雀らの、声も硬うはなりました
 
 煙突の、煙は風に乱れ散り
 

 
 火山灰掘れば氷のある如く
             かうき
 けざやけき気の底に青空は
 
 冷たく沈み、しみじみと
 

 
 教会堂の石段に
 
 日向ぼつこをしてあれば
  ひかり  めぐ
 陽光に廻る花々や
                              ね
 物蔭に、すずろすだける虫の音や
 

 
 秋の日は、からだに暖か
 
 手や足に、ひえびえとして
 
 此の日頃、広告気球は新宿の
 
 空に揚りて漂へり