中原中也「山羊の歌」


    
   悲しき朝


 
河瀬の音が山に来る、
 
春の光は、石のやうだ。
かけひ
筧の水は、物語る
しらが  をうな      に
白髪の嫗にさも肖てる。

 
雲母の口して歌つたよ、
うし
背ろに倒れ、歌つたよ、
     か     しわが
心は涸れて皺枯いはほ
 
巌の上の、綱渡り。

 
知れざる炎、空にゆき!

 
響の雨は、濡れ冠る!

 
・・・・・・・・・・・

 
われかにかくに手を拍く……