中原中也「山羊の歌」


    
   夏の日の歌


 
青い空は動かない、
  ぎれ
雲片一つあるでない。
 
  夏の真昼の静かには
 
  タールの光も清くなる。

 
夏の空には何かがある、
 
いぢらしく思はせる何かがある、
                 ひまはり
  焦げて図太い向日葵が
 
  田舎の駅には咲いてゐる。

 
上手に子供を育てゆく、
 
母親に似て汽車の汽笛は鳴る。
 
  山の近くを走る時。

 
山の近くを走りながら、
 
母親に似て汽車の汽笛は鳴る。
 
  夏の真昼の暑い時。