中原中也「山羊の歌」


    
   夕 照


 
丘々は、胸に手を当て
 
退けり。
 
落陽は、慈愛の色の
 
金のいろ。

 
原に草、
ひなうた
鄙唄うたひ
 
山に樹々、
 
老いてつましき心ばせ。

 
かゝる折しも我ありぬ
 
小児に踏まれし
 
貝の肉。

 
かゝるをりしも剛直の、
 
さあれゆかしきあきらめよ
   く
腕拱みながら歩み去る。