上田敏「海潮音」
火宅 エミイル・ヴェルハアレン
あ あ らんえ おうごん あた 嗚呼、爛壊せる黄金の毒に中りし大都会、 けむり 石は叫び烟舞ひのぼり、 まるやね すぐだち せきちゆう 驕慢の円葢よ、塔よ、直立の石柱よ、 わ 虚空は震ひ、労役のたぎち沸くを、 なれ だい い ふ 好むや、汝、この大畏怖を、叫喚を、 たびうど あはれ旅人、 さか だくせい 悲みて夢うつら離りて行くか、濁世を、 つゝむ火焔の帯の停車場。 なかぞら かりん 中空の山けたゝまし跳り過ぐる火輪の響。 はやがね おと なが胸を焦す早鐘、陰々と、とよもす音も、 ゆふべ この夕、都会に打ちぬ。炎上の焔、赤々、 ひのこ おもて 千万の火粉の光、うちつけに面を照らし、 こわぐろ やごゑ 声黒きわめき、さけびは、妄執の心の矢声。 とくせい ねぢ 満身すべて涜聖の言葉に捩れ、 意志あへなくも狂瀾にのまれをはんぬ。 げ ほこ はた のろ 実に自らを矜りつゝ、将、咀ひぬる、あはれ、人の世。 |
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