警視庁第三方面本部代々木警察署。
甲州街道沿い、京王新線の初台駅と幡ヶ谷駅の丁度中間に有り、当然どちらの駅も最寄り駅で有り、当然どちらの駅からも遠い。
この代々木警察署の地下一階、霊安室の隣りに、警視庁捜査零課は居を構えていた。
所で、警視庁の捜査零課は、何故、代々木警察署に有るのだろうか?
その理由としては、矢張り地の利が挙げられるだろう。
ここ、東京の地図を思い出して貰いたい。
ご存知の通り、東京は東西に長い形をしている。
捜査零課は、それ一つで全東京をカヴァーしなければ成らない。
と成れば、都心に有るよりちょっと西側、山の手付近に有るのが都合良いので有る。
又、代々木警察署は目の前が甲州街道で有る為、甲州街道経由の首都高速や、靖国通りを使った東西の往来が楽なので有る。
それと実は、もう一つの理由が有る。
代々木警察署前の甲州街道には、地下鉄で有る所の京王新線が走っている。
実はこの京王新線の線路脇に、車一台が漸く通れる程の秘密の通路が作られており、新宿まで続いている。
捜査零課はこの通路を使って、迅速に行動する事が出来るのだ。
更にこの通路は、都営地下鉄全ての路線にも作られており、新宿から新宿線、大江戸線を経由し、更には浅草線、三田線とを通って、都内全域に行く事が出来るので有る。(どうやって地上に出るの?とは聞かない約束)
その実大江戸線は、捜査零課の為に作られたと言う噂が、実しやかに囁かれているぐらいで有る。
(民明書房刊、「世界のビックリ地下鉄」より)
「おはよーっ!」
いつもの明るい挨拶で、冴上捜査員が出署して来た。
今日来るべき捜査員が全員出署し、遅刻ギリギリでの事で有る。
「ゴホン!」
香庵理事官が不快の意を表す咳払いをする。
そこにいる他の全員は、当然の如く気付かない振りをする。
冴上捜査員は一応、「すいませんでした」みたいな顔をして、軽く頭を下げる。
でも目は合わせない。
(はぁーっ…)
これ見よがしなため息を一つすると、香庵理事官は不機嫌にお茶をすすった。
「おはよう」
そう優しく挨拶を返したのは、同じ部隊、機動隊第零独立中隊の先輩、あくぴー巡査部長で有る。
「おはよう御座います」
挨拶を返しながら冴上捜査員は、あくぴー捜査員の隣りに座った。
そして座るなり、冴上捜査員は切り出した。
「昨日私、すごいものを見たんですよーっ!」
大きな声だ。
そこにいた全員が、冴上捜査員を振り替える。
香庵理事官の目付きが、ますます鋭く成って行く。
それに気付いた冴上捜査員は、しまったと言う様に、小さく舌を出した。
冴上捜査員の声に驚いた一人でも有るあくぴー捜査員は、周囲に気を使ってか、小さな声で聞き返す。
「なに?何を見たの?」
「草原です。草原。」
冴上捜査員も、それに釣られて小声に成る。
周囲の人間は、徐々に自分の仕事に戻り、静かな喧騒が甦る。
「草原?それがそんなに凄いの?」
「すごいんですよーっ、それが。みわ姉さんも聞いて下さい!」
突如話を振られたのは、衛生看護係係長、くわはらみわ警部補で有る。
冴上捜査員の調度向かいに座っており、よく、話し相手や相談相手に成っていた。
みんなから「みわ姉さん」と呼ばれ、慕われている。
「あら、私にも聞かせてくれるの?」
向かいに座っているだけの事は有って、先程までの、冴上捜査員とあくぴー捜査員との会話は、丸聞こえで有った。
当たり前の様にそう答える。
「もちろん!」
そう言うと冴上捜査員は、あくぴー捜査員とくわはら係長の二人を相手に語り始めた。
昨日体験した出来事を。
そう、署に戻る途中、草原を見た事を。
広く不思議な、そして金色に輝いていた草原を見た事を。
しかし、あくぴー捜査員、くわはら係長の二人は、ひどく後悔する事と成った。
冴上捜査員のこの話が、一時間以上に及んだからで有る。
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