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地蔵通り商店街とは別の、西原通り商店街。
王刑事に引き連れられ、あくぴー、くわはら、冴上の三刑事は、この人気のない商店街を歩いていた。

その脇を、子供達が楽しそうに走り去って行く。
恐らくは遊びを終え、自分達の家へと帰って行く途中なのだろう。
その姿が遠く赤い夕日の中に溶け、その声も紅の中へと消えて行った。

本日の業務が終わった後、例の草原を見る為に、「地蔵通り商店街」に向かう途中の事で有る。
しかしこの「西原通り商店街」は、代々木警察署と地蔵通り商店街との、最短経路上にはない。
王刑事は、わざわざ回り道をしてまで、この商店街を通っているのだ。
理由を聞いても「いいから、いいから。」としか答えない。
三人の女性達は、半ば呆然と、付いて歩いている状態だ。

とその時、冴上刑事は思った。
この商店街も、あの「地蔵通り商店街」に似てると。

「最近はどこも開発が早くてね、街がどんどん新しく成ってしまう。古い街は置いてけ堀さ。それにどんな意味が有るのか、そしてどんな意味が有ったのか…、それを考える暇さえ与えられない。」
王刑事は言った。

そう、この「西原通り商店街」も「地蔵通り商店街」も、置いてけ堀の街なのだ。

王刑事がふと足を止めた。
三人の女性も、急停止する。

「いったーい!」
「ごめん、ごめん…」
冴上刑事が、あくぴー刑事の背中に激突した様だ。

ふと顔を上げれば…
とうふ屋の前。看板には「井上とうふ店」と書かれている。

「よう源さん、いるかい!」
王刑事が、店の中に声を掛けた。

「よう、王さんじゃないか。久し振りだねぇ。」
そう言って出て来たのは店の主人だろう、頑固そうな老人で有る。
白髪を短く刈り込み、いかにも職人気質と言った風情で有る。

「久し振りに来たと思ったら今日はどうしたんだい、女の子を三人も連れて。羨ましいねぇ、まったく。」
「いやいや、たまたま近くを通ったら、源さんの豆腐が食べたく成ってねぇ。」
店主のからかいを、そっけないウソで受け流す王刑事。

「そうかい、ウソでも嬉しいよ。所で今日は何を買って行ってくれるんだい?」
「そうだなぁ…」
ウソを見透かされたか、引きつった笑いで答える王刑事。

「絹を四丁と、わさび四本…」
「絹四にわさび四、それと?」
「油揚げを3枚程。」
「はいよ。」

注文を聞き終えると、慣れた手付きで袋詰めをする。
ちゃんと人数分、袋詰めをする事を忘れない。
「ここもなんだぁ、近所にスーパーが出来ちまったろ。コメットとか言うのが。あれのお陰でねぇ、色んな所が店をたたんじまったよ。ここはなんとか細々やってけるがねぇ。」

「そうかい…(コメットじゃなくてサミットなんだがなぁ…)」
とは思っても、口にはしない王刑事。

「おっと、下らねぇ愚痴を聞かせちまったな。すまねぇ、すまねぇ。王さんが来ると、ついつい要らねぇ事まで話しちまう。そっちのお嬢さん方も、今の話は忘れてくれよな。」
急に振られ、愛想笑いを返す三人の女性刑事。

そして店主は、袋を四つ差し出した。
白銅貨を数枚渡し、それを受け取る王刑事。

「はい。」
そう言うと、王刑事は受け取った袋を、三人に差し出した。

「ありがとうございますぅ…」
「どうも。」
「いただきます。」
受け取る三人。

「ここの豆腐は絶品でね。わさび醤油で食べると最高なんだよ。出来れば今日中に食べて下さいね。」
「はぁ…」
草原を見に行くつもりが、訳の分からん商店街に連れて来られ、おまけに豆腐とわさびを渡され、只々戸惑う三人。

「それでは行きましょう。それでは源さん、また。」
「はいよ。」

王刑事は歩みを進めた。

 

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