がらがらがら…
「おはよーございまーすぅ」
翌朝、代々木警察署内捜査零課。
横開き式のドアを開け、冴上捜査員が元気なく入って来た。
そう…
捜査零課の扉は、押しても駄目なら引いても駄目、昔の学校宜しく横開きなので有る。
格子状の桟には、当然曇りガラス。
昨日、草原が見付からなかったのが、未だに引いているのだろう。
いつもなら、元気いっぱい出署して来る冴上捜査員だが、今日はどうも元気がない。
「別に気にしなくていいわよ。」
冴上捜査員が椅子に座ると、あくぴー捜査員が、気を使って声を掛けて来た。
「そうそう、元気出して。」
くわはら係長もそれに続く。
「はぁ…有り難う御座います。でもなぁ、はぁ…」
二人の励ましも虚しく、冴上捜査員は深いため息を付いた。
それを見た、あくぴー、くわはらの二人。
やれやれと言った感じで目を合わせる。
そして、そんな二人も小さなため息を付く。
(こんな時は何を言ってもしょうがない。)
暗黙の内にそれを了解した、二人の共通の動作で有った。
♪キーンコンーンカーンコーン…
その日の12:00、小学校宜しく、和やかなチャイムが昼休みを告げる。
「わーい、ご飯の時間だーい!ねぇねぇ今日はどうする?」
と冴上捜査員が騒ぎ始めるのが、いつもの光景なのだが…
今日は自分の席に座ったまま、下を向いているだけで有る。
とその時、話し掛けてくる人が有った。
長身で初老の男性、物腰こそ穏やかで有るが、見る人が見れば、彼の奥底に眠る殺気を感じる取るかも知れない。
鋭い剃刀を、再び鞘に収めたような印象の人。
そう、捜査零課特殊命令捜査係係長、王警部補で有る。
彼は日頃から穏やかで、笑顔を絶やさない。
そして現場の長老として、多くの捜査員に慕われている人物でも有る。
そんな彼が、冴上捜査員に話し掛けて来た。
「今日はどうしたんですか?なんか元気がないみたいですが。」
冴上捜査員の不元気を、心配しての事で有った。
「そうなんですよぅ…」
未だ元気の出ない冴上捜査員に、王係長は、江戸時代の世直し爺さんの様な言葉を言った。
「この私に理由を話して貰えませんかね?」
「理由ですか?大した事じゃないんです。なんか下らなくて…」
「いいから。いいから。」
そう言って、冴上刑事に笑顔を返した。
どこか懐かしい様な…心休まる笑顔で有る。
その笑顔を見て…冴上捜査員は、その「理由」を話し始めた。
一昨日、美しい草原を見た事。
昨日、その草原を、自分、あくぴー捜査員、くわはら係長の三人で見に行った事。
でも結局、その草原が見付からなかった事…
その経緯を全て聞き…
王係長は、全てを納得した様に、深く何度も頷くのだった。
そして再び、優しい笑顔を冴上捜査員に返す。
「分かりました。それでは今日、みんなでまた、その草原を見に行きましょう。」
「えーっ、でも昨日、すっごい探したのに見付からなかったんですよぉ!ねぇ、あくぴーさんに、みわ姉さん!」
抗議の声を上げる冴上捜査員。そして突如振られ、驚く二人。
「そ、そうねぇ…」
取り敢えず、くわはら係長がそう返す。
「探しても多分、見付からないんじゃないかしら。」
あくぴー捜査員も続く。
「大丈夫ですよ。草原は見付からないかも知れませんけど、もっと他のものを見せて上げます。仕事が終わったら、みんなで見に行きましょう。いいですね?」
どこか楽しそうな王係長。
「うーん…」
「はぁ…」
「えぇ…」
三人は三様に、気のない返事をするのだった。
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