|||||二|||||||

 

「おばちゃーん、カルビ二人前追加ー!」
冴上刑事の絶叫が、店中にこだまする。

「バリバリサラダも追加ね。」
あくぴー刑事もそれに続いた。

くわはら刑事は、黙々とタン塩を焼いている。

店にいる他の客達は、この三人の凄まじいまでの食欲に、只々圧倒されていた。
店のおばちゃんだけは、この常連達の光景に免疫が有る様だが。

代々木八幡駅前の焼肉屋「バリバリ」。
あくぴー、くわはら、冴上の三刑事は、ここで遅い夕食を取っていた。

「まったく何で見付かんないのかしらねーっ!」
冴上刑事が、カルビを頬張りながら言った。

仕事が終わった後、冴上刑事は、あくぴー、くわはらの両刑事を半ば無理矢理、草原観賞ツアーに連れ出したのだった。
そして結局…、どれだけ探しても、草原は見付からなかったので有る。
このままでは面白くない、と言う訳で、ここ「バリバリ」での焼肉パーティーと言う運びに成った。

「なんか見間違えたんじゃないのぉ?」
あくぴー刑事が、からかう様に言った。

「ひっどーい!そんな事ないですよぉ!」
むくれる冴上刑事。

「ほらほらタン塩、焼き過ぎよ。」
くわはら刑事が、冴上刑事の小皿に、肉を放り込んだ。

「あっホントだ。ありがとー。」
一瞬にして笑顔に戻る。

「私にもそんな事が有ったわ。」

「ほんなホトっへ?」
答える冴上刑事。タン塩を口に運び、ハシを口に突っ込んだままで有る。

くわはら刑事が、炭火の火を見詰めながら、昔の事を語り始めた。
「子供の頃ね、古い洋館の空き家を見付けたの。中に入りたかったんだけど、一人では恐くて出来なかった。だから次の日ね、友達を誘って大勢で行く事にしたの。でもね、その洋館は決して見付からなかった。何時間も探しても。次の日も、その又次の日も。そしてずーっと…。そう言う事って有るのよ。」

その話に、冴上刑事のみならず、あくぴー刑事も聞き入ってしまった。
目をぱちくりさせ、沈黙する二人。
その沈黙を破ったのは、あくぴー刑事の方だった。

「キツネ…かもね、ははは…」
「まっさかー!ハハハ…」
わざとらしい笑いをする、あくぴー、冴上の両刑事。

「あながちウソじゃないかも。」
くわはら刑事のその言いに、二人は再び笑顔で沈黙するのだった。

その沈黙を破ったのは…、今度は店のおばちゃんだった。
「カルビ二人前とサラダ、お待ちね!」

「わーい!」
冴上刑事が早速受け取る。満面の笑顔。

「まぁいいや!食べよ食べよ!」
言うが早いか、冴上刑事は肉を鉄板いっぱいにならべた。
香ばしい煙が、一面に広がる。

「そうね」
「そうね」
残る二人はサラダに箸をのばす。こちらも笑顔。

あくぴー刑事が、くわはら刑事を相手にサラダ談議を始めた。
「このサラダ、家で作ってもこうは美味しくないのよねぇ。ちゃんとここで買ったドレッシング使ってんのよ。」
「それはねぇ、ごま油を混ぜるといいのよ。おばちゃんに聞いたわ。それだけで、かなり美味しくなるわよ。それでも、ここの味程には成らないのよねぇ。きっと何か他にも、隠し味使ってんのよ。おばちゃん、教えてくれないんだぁ。」
「そりゃぁ商売上がったりだもんねぇ。」
「まぁそうね、って、話してる間に、そんなに肉取ってる!」

急に話を振られ、驚く冴上刑事。
見れば取り皿に、カルビが山と盛られている。
「いーじゃないですかぁ別にぃ!」

あくぴー、くわはらの二人の刑事も、慌てて肉を取り始める。
「ちょっと、そんなに取らないで下さい!私の分がー!きゃー!」

冴上刑事の言葉の抵抗も虚しく、鉄板の上のカルビは、あっと言う間に全滅したので有る。

「くそぅこうなったら…。おばちゃーん!石焼きビビンバー!」
「あっ、私も。」
「わたしはカルビクッパ。それと卵スープを人数分ね。」

禿鷹の如き三人娘。
焼肉屋「バリバリ」の夜は、今日も更けて行くので有った。

 

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